口を開くと上の入れ歯が外れ、落ちてしまいます。(60代女性)
口を開くと上の入れ歯が外れてしまい、落ちないようにいつも噛み締めてしまいます。
上の入れ歯が落ちないようにするためには、いくつかのポイントがあります。
①上顎(口蓋)をしっかりと入れ歯で覆うこと。
入れ歯は、空気が入ると、外れやすいため、上顎(口蓋)はしっかりと入れ歯で覆うことが大切です。
稀に、口蓋を覆っていない、無口蓋入れ歯を見ることがあります。
一見、違和感がないように感じますが、右で噛んだり左で噛んだりする度に入れ歯が動いてしまいます。動く入れ歯こそが、違和感の原因ともなり得ます。
上顎を覆うと、違和感があるのではと言うご質問も頂きますが、0.3ミリの厚みで、ウォーターフィルム現象(※1)により吸着した入れ歯は、上顎と一体化するため、慣れていただくことができます。
(※1)ガラスとガラスの間に水を介在させると、ピッタリとくっつく現象。入れ歯と歯茎の間に唾液を介在させることで、同様の現象が起こります。
②歯肉の一番奥まで、入れ歯で封鎖すること。
入れ歯の頬の部分(ピンク色の床)が短いと、①と同じように空気が入ってしまいます。口を膨らます動作、風船を膨らませるなどをすると、入れ歯に空気が入り込み、外れてしまいます。
そのため、しっかりと奥まで覆うことで、空気が入りにくくなります。
③前歯が傾きすぎていると、口輪筋の緊張で外れてしまうことがあります。
口輪筋とは、口の周りの筋肉のことですが、前歯が出っ歯のようになっていると、筋肉が押さえ込む力で外してしまいます。
この対策として、前歯は、なるべく角度を垂直にすることも気をつけます。
④入れ歯が長すぎても、入れ歯を外してしまいます。
口を開ける時に緊張する筋肉は、口輪筋と頬筋が主ですが、筋肉が緊張(ろうそくをフゥーっと吹く、口を尖らせるなど。)すると入れ歯を押し下げてしまい、外してしまう現象が起こります。
その場合には、長い部分を削れば外れなくなります。
⑤かみ合わせ
天然の歯と、入れ歯は、かみ合わせが異なります。
通常、天然の歯は、前歯が顎の動きのハンドルのような役割を担っていますが、総入れ歯の場合は、前歯と奥歯両方でバランスを保つかみ合わせにします。
なぜなら、入れ歯は、前歯で強く噛むと、一番後ろから空気が入り込み、外れてしまうからです。前歯が強く噛んだ時に、奥歯も噛み合いバランスを保つことで、外れにくくなります。
今回、治療をさせていただいた、患者様は、前述させていただいた②歯肉の奥まで入れ歯が封鎖されておらず、短い入れ歯であったため、口を閉じているときは良いのですが、一旦口を開くと空気が入り込み外れてしまいました。また、⑤天然の歯と同じような、かみ合わせであったため、顎を動かす度に、入れ歯がパカパカと動いてしまっていました。
そこで、まず短い入れ歯を長く修正させていただきましたが、それだけでも入れ歯は外れにくくなり、心配されていた患者さまの表情が和らぎました。
左側が、以前使っていらっしゃった総入れ歯で、右側が今回新しく作り直しをさせていただいたものです。 比べてみると、明らかに大きさが違うと思います。
もう一点、気になったのは、前歯がほとんど見えなかったことです。
そこで、前歯が美しく見えるように歯の位置を修正しました。また、口元の高さ(鼻の下から顎までの距離)が短かったため、高さを上げることで、ほうれい線も消えスッキリとした表情になりました。
製作をお願いしたのは、Weber dental labor 丸山耕平さんです。
患者さまの口元が一番美しく見えるように、一生懸命頑張りました。
患者さまはこれまで、お孫さんの面倒などで、ご自身に時間をかける余裕がなかったそうですが、これからは不自由なく食事や会話を楽しむことができそうです。とおっしゃっていただきました。